リラの歴史 -Part II-

<皇帝の足跡の上に> 革命真っ最中である1793年末、古いリーブル・リラ貨幣は絞首台に 上ることになる。新しいフランスの硬貨は”リラ”という名ではあった が、100分の1と10分の1とに分けらた。そして、1795年には 名前も替わって”フラン”となった。

ナポレオンはこの新しい通貨制度を持ってヨーロッパを巡り、彼のイタ リア王国の通貨も、この制度が採用されイタリア・リラとなった。語呂 のいい呼び名ではある。が、イタリア・リラでありながらナポレオンの 肖像が刻まれたものであった。

ナポレオン没落後、古い通貨制度を再導入しようという試みがあったが、 既に10分の1、100分の1コインの合理性に市民達は慣れ切ってし まっていた。そしてこのナポレオンの通貨制度が、1816年にヴィッ トリオ・エマヌエーレ1世によって発行された、ピエモンテの”新しい リラ制度”を確実なものにすることとなった。

<ついにイタリアへ> 1861年3月17日にイタリア王国統一が宣言され、通貨統一問題に も直面しなければならなくなった。古い国々の通貨の効力を保ちながら、 またそれらを徐々に廃止しながら、ナポレオンのイタリア・リラは全イ タリア王国に法的効力を与えられ、また肖像画も新たにイタリア王国初 代国王ヴィットリオ・エマヌエーレ2世が刻まれた新しいピエモンテの リラとして生まれ変わった。

1年後の新たな改革により、イタリアの”リラ”はその正式な歴史を歩 み始める。王国統一基準に基づく造幣局は、当初3箇所。その後4箇所 へと増え、紙幣印刷も行われるようになる。

<多数の銀行、多種の紙幣> 統一の時期、唯一の紙幣発行機関を信用するということは、論理的なこ とであったであろうし、カブール宰相もそれを望んでいたであろう。だ がこの時代、イタリア人達は、ローマ銀行、ナポリ銀行、シシリア銀行、 トスカーナ銀行、トスカーナ工業商業銀行、イタリア王国国立銀行やそ の他小規模銀行発行による様々な紙幣を手にする羽目になった。

1893年になって、これらの主な金融機関は自らを吸収併合させるこ とになるイタリア銀行設立に合意する。この処置は1926年にようや く終了した。しかし、1979年までは、イタリア銀行のみならず、大 蔵省も紙幣を発行していたのである。

リラと呼ばれた過去の多種におよぶ紙幣類は、その使命を遂げたといえ るだろう。一般に流通していた紙幣に限ると100種類もの紙幣が、特 別な発行も含めれば問題無く500種類以上に到達するリラ紙幣が、ま た小規模取引小切手の類を考慮するとすると何千ものリラ紙幣が放棄さ れ、それらの遺骸なくして現在のイタリア・リラは存在しないと言える のではないだろうか。

<1リラの価値があった時> シャルル・マーニュの時代、1リラは1人の奴隷と10の雄羊が買える 価値があった。1800年代末のイタリアでは、2500リラは郵便局 員の1年の賃金だった。今では、2500リラでジェラート1個が買え るか買えないかの価値しかない。

統一から今日まで、通貨の切り下げは何度も行われた。一番劇的だった のは、二度の世界大戦に関わるものであろう。が、戯れたとしか言えな い程度の効力しかなかった。

購買力向上に伴ない(それだけではないが)、紙幣の大きさが小さくなっ たということは、興味深い。1896年の1000リラ札は24X14 cm、現在のそれは12,6X6,3cmと約半分の大きさ。1947 年発行10000リラ札は24,5X12、5cm、一方現在のそれは 13,3X7cmである。

1800年代の一番の高額紙幣は1000リラ札だったが、1947年 から48年にかけて、5000リラ札と10000リラ札が登場し、5 0000リラ札と100000リラ札は1967年に、500000リ ラ札のお目見えはつい一昨日と言える程記憶に新しい。

この1997年に発行された最新の紙幣である500000リラ札は、 現在までに発行された紙幣の中で、絶対的に価値が高いという訳ではな い。1864年発行に発行されたトスカーナ商業工業銀行の5000リ ラ札は、現代の500000リラの80倍以上の価値で取引されていた のだから。

<イラスト入りのリラ> 贋造紙幣を防ぐ必要性から使用されるようになったイラストには、国王、 芸術家、科学者、実業家といった多くのイタリア著名人の肖像画や、一 連の寓意を含んだ生物が使われれ、また芸術作品や労働者なども追加さ れた。王国時代の最も典型的な肖像画は国王であり、ファシズモは寓意 画を、共和国は有名人を好んで使用した。

通貨というものは、通常、最も統合的な、またシンボル的な意味を持つ ものである。ヴィットリオ・エマヌエーレ3世は、貨幣研究にとても熱 中したことで知られているが、彼の王国時代に発行された通貨は、特別 に配慮された、複雑で淡く、柔らかな女性的デザインが施されている。

<忘れられた貨幣> 一般に使用された通常の通貨の他に、小規模銀行によって800年代に 発行された、殆ど一般には知られていない紙幣もある。その他、ある一 定年齢以上の人にとって、1つの思い出とも言える紙幣・貨幣もある。

1943年から第二次世界大戦の勝者によってばら撒かれた、悪評高い ”AMリラ”という名のリラは、戦後の通貨暴落に少なくとも貢献した と言えよう。オーストリア−ハンガリー連合軍によってヴェネト州に出 回ったリラもあった。また、イタリアが他国に侵入した際に、他国の言 語で表記されたイタリア・リラも存在していたのである。

色々な意味でいって、我々の通貨は既に何十年も前から”幻影”だと言 えるのではないだろうか。ちなみに、1リラコインの流通は1959年 にまで遡らなくてならない。ユーロの出現によってイタリア・リラは幻 と化すであろう。しかし、その他の消えゆく通貨と共に、リラの歴史は、 時代の移り変わりと、その時代の混乱と希望とを思い出させる資料とし て、我々の記憶に残り続けるに違いない。