マンション崩壊

先週の木曜日の早朝3時。長靴の踵にあたるPUGLIA(プーリア)州の FOGGIA(フォッジャ)という街の郊外にある1件のマンションが崩れた。 いや、崩壊した。翌朝のニュースは、この突然襲った不幸を伝えるニュ ースで持ちきり。6階立て、24世帯の住むマンションが、地震や爆撃 といった衝撃が与えられた訳でもなくいきなり跡形も無く崩れたのだか ら、このニュースがイタリア国民に与えた衝撃は強かった。

瓦礫の山と化した”元”マンションのあった場所では、崩壊直後から瓦 礫の下に生き埋めとなっている生存者を探す消防隊員と警察と、それか ら近隣の住民とが必死になって救出作業を行っている映像が早朝のニュ ースから映し出されていた。瓦礫とを掻き出すためのバケツリレーに使 われていたバケツは、近隣の住宅から駆り出されたもの。事故現場の回 りは、この突然隣人を襲った不幸なニュースを聞きつけた、いや、ニュ ースで見るよりも先に、マンション崩壊時の何とも表現できない程の轟 音を聞きつけた近隣の住民と、それから友人知人と報道陣と野次馬とで 一杯。

このマンションの住人であったとある一家は、夜中に部屋に既に入って いたひび割れが拡大し、寝静まったマンション内に響いていた何かが崩 れる音から様子がおかしいのに気付き消防所に連絡を入れている。その 後、僅か5分と経たない内にこのマンションは崩壊してしまった。この 一家、崩壊寸前まで同じマンションの住民のインターフォンを避難を促 そうと必死鳴らし続けたそう。ということは、このマンション、何らか の崩壊に繋がる経緯があったということになる。

ここはフォッジャの郊外にある住宅地。崩壊したマンションは約30年 前に建てられたもので、近隣は同じ時期に建てられた同じ建築のマンシ ョンが立ち並んでいる。日本でいう、団地のようなもの。1件のマンシ ョンが崩壊したということは、その他のマンションも同じような危険を 含んでいるという意味になる。崩壊したマンションと軒を並べていた双 子のマンションには、壁に走った大きなひび割れが、同じような惨事の 危険性を含んでいることを物語っていた。明日はわが身と、この隣のマ ンションの住民は、自分の家を捨てて避難を開始。また、建築会社に対 する非難の声も高まった。

最終的には62名の被害者を出した今回のマンション崩壊事故。1週間 も経たない今日の事故現場の様子は、崩壊直後の画像がまるで嘘のよう に瓦礫は全て取り除かれ、一角はぽかんと開いた元駐車場であった穴が 残っているだけ。同じように去年12月にローマの郊外で起きたマンシ ョンの崩壊事故現場も、約1年間、穴が開いた状態で放置されたままに なっている。

事故後、イタリア各地の消防署の電話が鳴りつづけているという。不信 な点のある全ての建物の調査を政府が命令したという事も手伝って、FO GGIAに次ぐ惨事を防ぐ為に各地で専門家の調査が始まった。今回の事 故原因は建築設計の杜撰さだと言われているが、まだはっきりとしたこ とは判っていない。ローマのマンション崩壊事故も、原因がはっきりし ないまま人々の記憶から薄れて来ているところだった。

今週の火曜、FOGGIAの街では被害者62名の合同葬儀が行われた。街 中は日中の人通りが殆どなく、この街の住民の殆どが葬儀に参列したと 思われている。

この事故のニュースを見て、自分の家の壁にひび割れが走っていないか どうかを確認してしまった。石造りの家に住んでいると、なにかあった ときには重たい石の下敷きとなって命を失う危険性は高い。

突然、夜中に自分のマンションが今までに聞いたこともない様な音をた てて崩れたら...生存者及び被害者の味わった恐怖は、計り知れないも のがある。